「新たな学びの世界」
30期 彌永 秀一
造園業として独立して14 年になります。普段は庭やランドスケープのデザインと施工を中心に活動しています。数年前から改修工事をしている保育園の園庭にあるソメイヨシノの樹勢が芳しくなく、回復の技術を取得しなんとか往時の姿を取り戻したい、というのが樹木医受験の動機でした。大学は絵画専攻、卒業後は建築や花屋、造園など、実際に手や身体を動かす仕事をしていた私にとって樹木医の試験勉強は全く新しい学びの世界でした。なにぶん教科書的なものに馴染みが薄かったので、初めて過去問題を見た時にはその内容の難しさと範囲の広さに目眩を覚えました。しかしここで挫けては保育園の桜の樹勢は衰えるばかりと奮起して、まずは出てくる漢字の練習と高校生物を1からやり直すことから始めました。数学も化学もさぼらずやっておけばと悔やみながら、現場上がりの体に鞭打って夜ごと机に向かいました。
「樹木医の手引き」に沿って少しずつ学び進むうちに、腐朽や植物ホルモン、土壌のことなど、これまでの職人の経験や感性に委ねられる世界とは違う、国内外の科学的見地に基づく植物へのアプローチにいつしか興味が深まっていく自分がいました。学ぶ内容は樹木単体についてのみならず、植生や気象、菌類など植物を取り巻くあらゆる物・現象に渡ります。それらは同時に人間を取り巻く物や現象でもあり、樹木と人、自然と人間との関係をより深く考えさせる学びでもありました。
試験や研修は決して簡単ではありませんでしたが、こうして樹木医の入口に立つことができました。今はまだ実績はありませんが、ここに立った事で、少し視界が開け、知りたい情報により早く近づけるようになったと感じています。同時にまだまだ学ぶべき事も多いと痛感する日々です。
私にとって樹木医の仕事は普段のデザインの仕事とまた違う角度からの視点を与えてくれる存在です。科学的かつ長期的に自然の摂理に従った視点。これからも学びを進め、2 つの仕事を同時に高めていきながら、美しい風景を作り、守っていきたいと思います。