「予防する樹木医に」
23期 佐々木 知幸
僕は個人事業で、ランドスケープデザインを生業としています。公園や個人邸の設計やプランニングに携わる一方で、現場の管理に参加することもあり、さまざまな形で樹木に関わっています。
もともと、前職の造園コンサルタント会社で樹木医の先輩方の薫陶を受け、資格をとるならば樹木医と思いつつ、なかなか一歩を踏み出せずにいました。
ところが、独立したのちにあまりにも樹木を軽視するクライアントに接する機会がありました。例えば、根系に悪影響があるので過度なマルチングをやめてほしいという要望をしたところ「ハウスメーカーは大丈夫だと言っている」と聞き入れてもらえず、悔しい思いをしました。残念ながら、「看板」で聞く耳を持つ人がいるという現実です。もっと一般の方に、樹木の知識をきちんと伝えたいと痛切に思い、樹木医になることを決心しました。
選抜試験に向けては、「手引き」を一通り読み、いくつか過去問題を解いたくらいであまり特別なことはせずに臨みました。論述問題がこれまで仕事で関わっていた緑化や多様性がテーマだったのも幸いでした。試験のために勉強をすることはもちろん大切ですが、日々アンテナを張ってさまざまな情報に接したり、現場で樹木に向かったりすることが基礎として非常に重要だと実感しました。
認定をいただいた際は、ようやくスタートラインに立ったという気持ちが強く、大きな喜びもなく、むしろ引き締まる思いでした。樹木医の職能は、樹木の治療とともに、いかに樹木のこと自然のことを一般の方に伝えるかが重要だと思っています。自然の森林のなかでは、攪乱や競争によって常に傷病老死が生じていることを思えば、樹木医の関わる樹木は常に人と共にあるものばかりです。樹木がなぜ病み、傷つくのかは人間の社会の鏡だと言えます。僕はそうした社会の側への働きかけを通して樹木が健康に生きられるよう、予防を行う樹木医でありたいと思います。